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サーモンの陸上養殖:現状と課題点

目次

陸上養殖:持続可能な水産業の未来

世界的なタンパク源の需要増、地球温暖化による漁獲量減少、乱獲による水産資源の枯渇、養殖による赤潮・魚病の発生など、水産業においてはさまざまな社会課題が現れています。これらの課題に対応するための一つの解決策として、陸上養殖が注目されています。

特に、サーモンの陸上養殖は、その持続可能性と環境への影響を考慮した新たな養殖方法として注目されています。しかし、その一方で、陸上養殖にはまだ多くの課題が存在します。

本記事では、サーモンの陸上養殖の現状と課題点について詳しく解説します。サーモンの陸上養殖がどのように進展しているのか、どのような課題が存在するのかを理解することで、持続可能な水産業の未来について考える一助となることを目指します。

私は 水産系の大学を卒業後、新卒で 鮮魚専門の 小売業(上場企業)に入社し、その後水産ベンチャー複数社でバイヤーやマーチャンダイザーを経験しました。 川下から川上までひととおり水産業を学んできたプロの目線から見て、他業界から新規参入が増えているサーモン養殖業について解説します。

サーモンの陸上養殖の重要性

陸上養殖は、環境負荷を抑えながら水産物を安定的に生産するための持続可能な手段として注目されています。これは、世界的なタンパク源の需要増、地球温暖化による漁獲量減少、乱獲による水産資源の枯渇、養殖による赤潮・魚病の発生など、さまざまな社会課題に対応するための一つの解決策となり得るからです。

さらに、日本国内においては、すでに大きな水産業の市場があり、 小売店をはじめ寿司店からカフェ、ホテル、旅館までサーモンは絶対に欠かすことのできない食材となっています。

近年では、主に飲食店や宿泊施設、道の駅など向けに土地土地の特徴を生かしたご当地サーモンが販売されるようになりました。

日本国内の限られた海だけではなく、陸上が養殖施設になることで、安定したサーモンの大量養殖を 推し進めることができます。

日本国内では、資源量の減少、 漁獲人口の減少、 海洋の温暖化などにより 漁獲量は減少の一途をたどっています。 あまり知られていないことでありますが、 2010年から2020年の間に、一般消費者の 年間あたりの魚介類購入量はなんと40%減になっています。

閉鎖循環式陸上養殖の課題

社会実装に向けて、事業者の収益化、魚種の多様化、安全性の担保が課題となっています。

  • 魚粉価格の高騰: サーモンは魚粉を配合した飼料(餌)を与えます。この原料となるのは主にペルーなどから輸入する魚粉です。魚粉は世界的な水産物の需要増とペルー沖の不漁を受け高騰する一方です。これを解決しないことには陸上養殖で水産大国として日本が世界に返り咲くことは不可能です。
  • 事業者の収益化: 施設の建設・運営コストが高く、生産者の販売単価が安価のため、事業継続が困難です。また、養殖魚の評価が低い(味・イメージ等)という問題もあります。さらに、魚の成長にかかる時間が長く、短期での収益化が見込めないという点も課題となっています。魚類由来餌料はタンパク質の変換効率が悪く、高コストとなります。
  • 魚種数の増加: 養殖可能な魚種が少なく、完全養殖が困難です。養殖に適した魚種は実はそこまで多くはありません。成長速度が早いこと(養殖期間が短い)、水温や水質、飼料など、養殖環境特有の条件に対応できる能力、病気に対する抵抗力が強いこと、飼料効率が良いこと、市場価値が高いことなどが条件として挙げられます。
  • 安全性の担保: 安全性を担保する仕組みができていない(認証・検査等)という問題があります。食中毒発生時の回収責任等の事業リスクが高いという課題もあります。また、データや技術の見える化・活用ができていないという点も課題となっています。

これらの課題を解決するためには、魚類を用いない高タンパク餌料の開発、未利用エネルギーを用いた加温・冷却技術については、再生エネルギーや温排水等の未利用エネルギーを活用した飼育水の加温・冷却が行われています。これにより、利用電力の発電にかかるGHG排出の削減やランニングコストの削減が期待されています。

具体的な事例

具体的な事例としては、原子力発電所の温排水活用や木質バイオマス発電所の温排水活用があります。原子力発電所の温排水を利用し、増養殖用種苗の量産、養殖技術の開発、親魚の養成を実施しています。また、発電所の温排水を利用した閉鎖循環式陸上養殖により、ニジマスを生産しています。

これらの技術開発は、陸上養殖の社会実装に向けた課題解決策の一つとなっています。その他の解決策としては、魚類を用いない高タンパク餌料の開発、魚種ごとの生態解明・種苗生産、画像解析、生育モニタリング、ロボティクスなどがあります。

これらの解決策を実現するためには、適切な制度・支援が必要となります。具体的には、生産の収益化(マニュアル整備、6次産業化等)、養殖物のイメージ向上に資する提言、施設のモジュール化・規格化、養殖関連データのオープンソース化、認証・ライセンス制度の導入などが求められています。

魚粉価格の高騰については 代替飼料の研究が進められていますが、どれもコストが合わず結局頓挫してしまっているようです。主に大豆たんぱく、昆虫、アラなどの残渣などが検討されてきました。

一方でチリやノルウェーのサーモンは種苗開発と飼料開発の結果、魚粉を与える量がかなり減っているという話があります。日本ももっと本腰を入れて研究開発が必要なのではないでしょうか。

プロキシマーシーフード社の事例

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プロキシマーシーフード社は、ノルウェーの養殖ノウハウと近代的で実績のある技術を融合し、富士山の麓、小山町にある日本初のアトランティックサーモンの陸上養殖場での生産に着手しました。この陸上施設は一部を除き建設中で、2023年に完成、2024年から日本の消費者に新鮮なサーモンを提供する予定です。

陸上生産により、水、電力、添加物の使用を最小限に抑え、年間を通じて高品質な生産と安定した水揚げ量を実現するとのこと。市場に近いため、空輸の必要がなく、比類のない新鮮さをお届けすることができます。生産は、閉鎖された環境で行われ、地域的にも世界的にも環境への影響を最小限に抑え、持続可能で安全な製品の実現を目指しています。

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最新クリーンテクノロジーを使用した陸上養殖の水質管理により、抗生物質、化学物質、汚染物質を全く使用しない、手つかずの自然と同等の水質環境で、健康的にストレスなくサーモンが成長。地産地消を促進することで、二酸化炭素排出を削減し、消費者に必要な分だけのサーモンを供給し、食品廃棄物の削減を目指しています。

陸上養殖のメリットとデメリット

陸上養殖のメリットとデメリットについて、以下に詳しく解説します。

メリット

  • 環境負荷の低減: 陸上養殖は、海や川などの自然環境への影響を最小限に抑えることができます。これは、養殖による赤潮や魚病の発生を防ぐことができるためです。
  • 安定した生産: 陸上養殖は、養殖環境を細かく制御することが可能で、その結果、安定した生産が可能となります。これは、地球温暖化による漁獲量の減少や乱獲による水産資源の枯渇といった問題に対する一つの解決策となります。
  • 高度な管理: 陸上養殖では、水温管理や疾病対策など、養殖環境の管理がより高度に行えます。これにより、魚の健康状態を最適に保つことが可能となります。

デメリット

  • 高い初期投資と運営コスト: 陸上養殖施設の建設と運営には高額なコストがかかります。また、魚の成長にかかる時間が長く、短期での収益化が見込めないという問題もあります。
  • 養殖可能な魚種の制限:現状では、陸上養殖が可能な魚種は限られています。完全養殖が困難な魚種も存在します。
  • 安全性の確保: 安全性を担保する仕組み(認証・検査等)が十分に整っていないという問題があります。食中毒発生時の回収責任等の事業リスクが高いという課題もあります。

以上が、陸上養殖のメリットとデメリットです。これらの情報は、陸上養殖の事業展開を考える際の参考になるでしょう。

まとめ

以上が、サーモンの陸上養殖の現状と課題点についての詳細な解説です。これらの情報は、陸上養殖の技術開発や事業展開を考える際の参考になるでしょう。持続可能な水産業の未来について考える一助となることを目指します。

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