はじめに
陸上養殖は、持続可能性と環境負荷の低さで注目されています。特にサーモンの陸上養殖は世界各地で進行中で、今後の食品供給における一つの解決策ともされています。
本記事では、陸上養殖とは何か、そしてその中核となるRAS技術、さらにはそのメリットとデメリット、具体的な活用例まで、幅広く解説します。
そもそも陸上養殖ってどういう意味?
陸上養殖とは、文字通り陸地上で行われる魚や海産物の養殖のことを指します。
一般的には、大きなタンクや人工池が設置され、そこで魚やエビ、カニ、ウニなどの海洋生物が育成されます。
これは海や河川、湖などの自然環境ではなく、人工的に作られた環境での養殖ですから、多くの条件を人為的にコントロールすることが可能です。
かけ流し式と閉鎖循環型
陸上養殖には「かけ流し式」と「閉鎖循環型(RAS)」があります。
かけ流し式は、常に新しい水を供給し使用後は外に排出する形式であり、水使用量が非常に多いのが特徴です。
一方、閉鎖循環型は水を高度に浄化して再利用するため、水使用量が非常に少なく環境に優しいとされています。
そして2020年頃から本格的に日本でもサーモン養殖が行われるようになったのがRASです。
従来の養殖方法における環境負荷の課題
養殖自体が必ずしも環境に悪いわけではありませんが、方法によっては環境への負荷が大きくなる可能性があります。
特に海洋での開放式養殖では、以下のような環境への影響が指摘されています。
養殖排泄物による水質汚染
魚が排泄するアンモニアや餌の残渣が海に放出され、これが水質を汚染する可能性があります。特に密度の高い養殖では、この問題が顕著になり得ます。
病気と寄生虫の拡散
海洋での養殖魚は、自然界の魚と直接接触する可能性が高く、それにより病気や寄生虫が拡散する危険性があります。この問題は、野生魚への影響としても懸念されています。
薬剤使用による影響
病気や寄生虫の対策として薬剤が使用されることがありますが、これが周囲の海域に拡散することで、海洋生態系に影響を与える可能性があります。
生態系への影響
養殖施設が海底環境に与える影響、野生生物に対する影響(例えば、エサとして与える魚の乱獲など)も考慮されるべき課題です。
これに対して、陸上養殖は環境閉鎖型が多く、上記のような問題が大幅に軽減されるとされています。
特にRASシステムを使用することで、水の再利用が高度に行われ、排泄物による水質汚染も抑制されます。したがって、「環境への影響が少ない」とされるわけです。
RAS(リサーキュレーション水産養殖システム)とは
RAS(Recirculating Aquaculture System:閉鎖循環式陸上養殖)は陸上養殖において核心的な技術です。
その名のとおり閉鎖環境で陸上養殖することを指しています。わかりやすく言えば観賞魚を飼育するアクアリウムのようなものです。(食用・増肉を目的とするため餌の量や飼育密度は比べ物になりませんが)
水を循環させて再利用するシステムには、高度なろ過装置や生物学的フィルター、酸素供給装置、PH調整装置などが組み込まれています。
これらの装置が高度に連携して、水質を一定に保ち、魚の健康を維持します。
サーモンと陸上養殖
サーモンは特に陸上養殖が注目される魚種です。海洋での養殖は病気や寄生虫、環境への影響といった問題が多く報告されています。これに対し、陸上養殖ではこれらの問題を大幅に軽減することが可能です。
特にRASを活用することで、魚の健康をより一層確保しつつ、持続可能な方法で高品質なサーモンを生産できる可能性があります。
日本における陸上養殖の現状
日本では、バナメイエビやムラサキウニ、ホンモロコ、トラフグなど、さまざまな魚種で陸上養殖が行われています。
これは陸上養殖が、特定の環境条件下でしか生きられない魚種や、独自の品種改良を行いたい場合などに非常に有用だからです。
メリット
環境への影響が少ない
陸上養殖は、水の再利用が可能であり、その結果として水使用量が大幅に削減されます。
また、RASシステムの使用によって、養殖池からの有害な排水の発生が抑制されるため、自然環境への影響が少ないとされています。
品質管理が容易
陸上での養殖は、外部からの環境影響を最小限に抑えることができます。
これにより、魚の成長環境をより厳密にコントロールすることが可能となり、高品質な魚肉の生産が期待されます。
病気と寄生虫のリスク低減
陸上養殖により、外部の病原体との接触リスクが低く、病気や寄生虫の発生を抑制することができます。これは特に、輸出を考慮した場合に重要な要素となります。
デメリット
高額な初期投資が必要
RASシステムには多くの高度な装置が必要で、その設置とメンテナンスには大きな費用がかかります。
例えば、水質を管理するための高度なフィルター、酸素供給装置、温度調整装置などが必要とされ、これらのコストが初期投資を大きくしています。
専門的な知識と技術が必要
RASシステムは高度な技術が要されるため、運用には専門的な知識が必要です。故障や水質の急激な変化、魚の病気などに素早く対処できる技術者が必要とされ、その教育と研修にも費用と時間がかかります。
運用コストも高い
水質を一定に保つためには、常にエネルギーを消費する装置が稼働している必要があります。
そのため、電力消費が多く、運用コストもかかります。特に、大規模な養殖施設ではこのコストが顕著となります。
結論
陸上養殖は多くのメリットを持つ一方で、デメリットも無視できないものがあります。
持続可能な魚肉供給の方法として注目されている陸上養殖ですが、それが本格的に普及するためには、初期投資と運用コストの問題をどう解決するかがカギとなります。
それに加え、専門的な知識と技術の普及と継承が必要です。これらの課題が解決されれば、より安全で持続可能な魚肉供給が期待できるでしょう。
以上のように、陸上養殖は多くのメリットを有していますが、高額な初期投資や運用の複雑さなど、課題も少なくありません。
それでも、持続可能な水産業に寄与する可能性が高いとされており、今後ますますその重要性は高まっていくでしょう。
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